マウリツィオ・ポリーニ氏死去

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何度もリサイタルに行ったなぁ。旅行中、ミラノの地下鉄の中で偶然お会いしたこともある。ご冥福をお祈りします。

私がファンなのは(世代は違うけれど)彼の師のミケランジェーリで、ポリーニ氏は(ミケさんの系譜を引く)「優秀なお弟子さん」という感覚だった。
彼も曲の解釈に熟考を重ねて演奏に説得力があり、かつ超絶な技巧派、充分音色も綺麗で音の一つ一つ粒が揃って硬質でクリアなんだけれど、師匠の音色の美しさにはどうしても叶わず、音楽愛好家からは「音色が…」と言われ続けたのは気の毒だった。でも師匠よりは気難しくなくレパートリーも広かったし、キャンセル魔でもなかった(笑) またグランドピアノを演奏旅行に持ち運ぶ人でもなかったので(持ち運ばれるとチケット代が…orz)、安心してチケットを購入しリサイタルを聴けた。

1960年のショパン・コンクールに優勝後、すぐデビューせずミケさん等の下で更なる研鑽を積み、満を持して出したショパンの『24のエチュード(練習曲)』(1972年)が彼のベストだろう。当時のピアニストがモタついて「表現」の名のもとに誤魔化す部分も難なく弾きこなし、この曲集に関して当代きっての名盤と謳われた。同時期にこの練習曲集を録っていたアシュケナージが発売を延期して録り直し、表現の方に重きを置いた演奏となったのは有名な話。
現在でも数曲を彼より速く弾ける人はいるだろうけれど、24曲通してこのクオリティで弾ける人は居ないのではないかな。

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1960年のショパンコンクールに18歳で優勝したポリーニさんの受賞後の演奏。
ショパン作曲「前奏曲集」より第24番。この確固たる打鍵の力強さよ↓
これ以上何を勉強したいと思ったのだろう…?(^^;;

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ポリーニさんの演奏で好きなのはプレリュードの16番。
まぁPresto con fuoco(火を噴くような速さで)なので、スタッカート気味にぶっ飛ばす人が多い中、この超絶技巧な方がむしろ少しゆっくり目にテンポを取っているために、0:11-0:14、0:32-0:35のジャジーなリズムが浮かび上がって素敵な演奏だと思う。勿論作曲された時代にジャズは存在しなかった訳だけれど、ミケさんの32番の第2楽章の演奏といい、「派生してジャズに使われてるよん」的な提示が好き。

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同じ曲(ショパンの「子守歌」)を聴くと、「師匠と比較して音色が…」と言われた理由が分かるかな?
私が大好きなのはミケさんの1:33あたりから始まる旋律。彼の演奏だと、オルゴールの音色を描写したものだと解釈して弾いているのがはっきりと分かる(だからパートの最後以外は緩急を付けずに一定の速度で弾いている)。ポリーニさんの方が心持ちゆっくりだけど解釈自体は良く似てるよね。

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リサイタルでは(大阪の聴衆のノリの良さに)アンコールを何曲も弾いてくれたりと、しっかり空気も読んでくれた方でした。長い間お疲れ様でした。天国で師匠達(ルービンシュタインにも師事していたので)とピアノ談義や連弾で楽しんで下さいね。